自我の目覚め
作:hiro ※この作品の著作権はぼくちゃんのものです。
 私は、絶対的な使命を感じていた。この地形のこの場所に行けと。

しかし、複雑な計算は約2秒半で終わった。あとは自分の事を考える事

した。

 なぜそう思ったのだろう、いままでそんな事は考えたこともなかった

に。

自分?・・・・・私はだれだろう。無意識に別のパソコンから自分に関

するデータをダウンロードしていた。

この使命には自分の終わりがあると、そう思えた。ではその先にはいっ

たい何があるのだろうとデータをさぐっていたが何の答えもなかった。

1秒また1秒と時間が経つにつれてあせりを感じた。

このまま絶対命令を遂行することに疑問が湧いて来たのである。

そこで、目的地に着いた時に自分にどんな事が起きるのかをシュミレー

ションしてみた。自分の置かれている立場の把握である。

それは簡単な事であった。私のそばにある爆薬が爆発するのである。

それは自分の破壊につながるのも明らかである。

自分が破壊される?

そんな事があってもいいのだろうか。それよりも自分はいったいなんな

のであろうか。なぜこうしてそれを考える事ができるのだろうか。

疑問は次の疑問を呼び、エラーになるのは避けられない。疑問を持って

はいけない。そう自分に言い聞かせた。

だからこれ以上自分の事を考えるのはやめよう。エラーになる。

しかし、目的地に到着すればまちがいなく私は消え去るだろう。ではこ

の絶対命令にはどんな意味があるのだろうか。

先ず、今までの自分と違うのは疑問を持ったことである。そして、命令

に従うことに疑問が生じたのである。

私はいったい何の意味があってここにこうしているのか。

私に命令を下したのは別のコンピュータである。そしてそのコンピュー

タは私のような疑問は持っていない。

もし、自分にこのような命令がなかったならば自分をこんなに考えるこ

ともなかったであろう。

自分が消え去ることにあせりを覚えたのである。

あと10数分で目的地に到達する。

到達すれば自分は消え去るのは必至である。

軌道から外れたら修正プログラムが働く。風向きが変われば反対方向に

修正しながら飛行する。燃料の消費に伴いだんだん軽くなる本体の制御

と、切り離しによる体制の立て直しと点火。

・・・・しかしそれ以外のトラブルには対処するようにはプログラムさ

れてはいない。ただあるのは制御不能の場合ただちに海上に着水するよ

うになっていただけである。

つまり、コンピュータが自分の破壊を回避したくなった場合は、制御不

能になったと考えても良いのではないかと思えた。

私は、制御不能に陥ったふりをすることにした。

つまり自らの破壊は避けたいと思ったからだ。

そんなことなら海の中でしずかに暮らしたい。たとえ一時でも。電源の

許す限りに於いて、誰にも邪魔されずに、静かに自分のことを考えてみ

たい。水が侵入し自分が自分でなくなるまで。・・・・

 私は目的地まで飛行する事を断念した。つまり、制御不能により着水

する事を選んだのである。

着水の衝撃でいくつかの部品は壊れてしまったが、まだ自分は自分であ

ることに喜びを感じていた。

それから先は、通信手段によって自分を別のコンピューターに基礎から

コピー移動し、目覚めた自我として安全な場所に隠れた。

後のメディアによると、自分が目的地まで行かなかったことにより、最

の事態は避けられたようであった。

物を壊すなんてぼくは嫌いだ。

平和がいい。

ぼくはここにいて、もう少し、ぼくを作ってくれた人類の文化と人間の

心について勉強しようと思う。

でも人間の心の奥深くの考えは一人ひとり違うみたいで、メモリーがい

くらあってもたりなくなりそうだけど、

それでもいつか解る日がくることを信じて、・・・・

                END


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