捕まったのは飯島であった。
……………………
子供を死なせてしまった事で妻をどうしても許す事ができなかっ
た。
家に帰れば妻の暗い顔を見せつけられ、会社では妻に良く似た芳
江の顔を見なければならない。どうにも心のやりばがなくなって、
当時一緒に働いていた同僚の妹と不倫関係になってしまった。それ
を知った妻は顔をあわせるたびに飯島を責め、飯島はそれが嫌でま
すます家に帰りたくなくなり、仕事にかこつけて会社で寝泊りする
日が多くなっていった。
妻が死んだあの日、たまたま着替えを取りに家に帰った飯島は、
階段の下で倒れている妻を発見した。その時妻はただ貧血で気を
失っていただけだったが、とっさに「このまま死んでくれたら楽に
なる」という思いが頭をよぎった。
我に返ったときには妻の手首を切っていて、後はもう夢中で自殺
に見えるように細工をしてこっそり裏口から抜け出し会社に戻っ
た。
警察が自殺と断定してホッとしたのもつかの間、今度は芳江が妻
の死に疑問を持っていることを何度もほのめかしてきたうえに、子
供の世話をすると称して自分の家に上がりこんで、しかも会う度に
妻の服を着ていて、暗に自分を脅迫してきた。それがもう何年も続
いて、ずっと我慢をしていた。
芳江が死んだあの日は、芳江の方から妻の13回忌の相談をした
いといってきて、最初は外で会う約束をしていた。しかし約束の時
間に都合がつかなくて、夜に芳江の部屋を訪ねることになった。
芳江を殺そうと思ったのはその時である。お酒と睡眠薬を持って
行き、無理やりお酒を飲ませて動けなくなったところで、芳江に睡
眠薬を一瓶全部飲ませた。まだ意識があった芳江を布団に寝かせ、
抵抗された時に乱れた服や部屋をきちんとかたずけてから部屋を出
た。それも自殺で片がつくと思っていたのに、貴子がいろいろ調べ
まわっている事を知って、警告のつもり貴子の家に侵入しようとし
たり、貴子を車で轢こうとしたが失敗してしまった。そしたら、貴
子がさも事件の事を知っているような事を会社中に話しているのを
聞いて、このままでは妻の事も芳江の事も知られてしまうと思っ
て、轢き殺そうとした。
…………………………
これが飯島の供述であった。
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