インサイド
作:hiro ※この作品の著作権はぼくちゃんのものです。
 私、いそがなくっちゃ。喫茶店で彼とは初めてのデートだし、こんど

の彼はきっと本物だと思う。会ったら先ず何を聞いたらいいのかな。

 それとも何も聞かずにしおらしくしていたほうがいいのかな。

この服装を彼はどう思ってくれるだろう。ま、いいか。あんまり派手だ

と変に思われるから。

 それにしても、前の車遅いわね。せっかく高速に乗ったのに。追い越

すの疲れるし、次のインターチェンジまでこのままついて走ろう。雨も

降ってるし、危険だから。

 でも今日はこんな天気になっちゃったのは、彼とは相性があわないの

かしらううん、そんな事はないわ。私をじっと見つめながら

「明日、仕事が終わったらぼくと付き合って下さい。」

と言った、あの目、あのまっすぐわたしの目を見つめた瞳には、なにも

嘘がない感じがした。

 ここね。

 でもずっと前に来た時と雰囲気がちがうみたい。最近不景気だからか

な。でも喫茶店の入り口に鳥を飼ってるなんて、変わってるお店だわ。

 あら、私のほうが遅かったのに、誰もいない。彼も仕事がいそがしい

のかな。このまま雨が強くなったら、彼は濡れてくるだろうか。

 あ、ハンカチ、ハンドバッグに入ってたかしら。ここに座って待って

いよう。

「いらっしゃいませ。何になさいますか?」

「コーヒーひとつ。」

「はい。少々お待ち下さい。」

 う〜ん。いまひとつ元気がないな。喫茶店ってこんなに静かだったっ

け。それに、窓から見える景色も雨のせいか暗い感じね。でも彼はきっ

と次に行く所がいいお店でこの近くだからここを待ち合わせ場所にした

んだわ。

 どんな顔でくるかな。「遅くなってごめーん。」かな。それとも、

「待った?」かな。

「コーヒーです。」

「ありがとう。」

 あら、あんまりにがくないわね、このコーヒー

「あら、いつの間に。・・・・いらしてたのね。」

「ごめんね。遅くなっちゃったね。」

「ううん。」

「ぼくもコーヒー頼もう。」

昨日会った時より落ち着いていい男だわ。この人ならきっとうまく行き

そう。でもなかなかいいセンスしてるわね。

「あのね。一緒に映画を観たかったんだ。どう?」

「いいわね。どんな映画?」

「あれ?・・・・題名はわすれちゃったけど・・・面白いんだ。」

「そうなの。」

「じゃ、すぐに行こう。」

「うん。」

 映画かあ。いつも家で観てるから、劇場だと音が違うんだよね。重低

がさ、こう、おなかに響いて・・・・

 彼が誘ってくれたのはどんな映画かしら。

「ここと、そこの席だね。」

「うん。」

 ひさしぶりに来た感じ。やっぱり来てよかった。彼と二人だと、どん

な映画だってだいじょうぶ。こわいのもだいじょうぶ・・・かな。

 あ、始まった。すごい。いきなり。きれいだ〜。やっぱり大画面は迫

力が違うわね。まるで自分が本当に空を飛んでるみたい。

あっちの空は暗いわね。下の方に見える樹がなんか気になるわ。

 ああ、向こうの方に街が見える。・・・・・・・

ちょっとまって。これってひょっとして、私、自分の夢を観てるんじゃ

ない、・・・まさかそんな、映画じゃなくて。

 だっていつも観てる夢と同じところのような感じがする。

「きみえちゃん。」

「ん?」

「きみえちゃん。寝ちゃったの?」

あ。映画を観ながら、夢を観てたんだわ。

「ごめんね。いつの間にか眠っちゃった。」

「仕事で疲れてたんだね。」

「ううん。」

「そろそろ映画も終わりだから、食事に行かない?」

「え、もうそんな時間なの?」

せっかく誘ってくれた映画なのに、私ったら、いつの間に眠ってしまっ

たんだろう。

「このタクシーに乗ろう。」

ああ、なんかこのタクシーもすごく眠くなる運転だわ。ふわふわしてて

それとも、彼とのデートに酔ってしまったのかしら。

「眠いのなら、よりかかって寝てもいいよ。」

こんなにやさしい人だったっけ、彼って。こんなに幸せなら、ずっとこ

してていいんだけど。

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