おじいちゃんの宝物
作:hiro ※この作品の著作権はぼくちゃんのものです。
「そして、その宝物は、あった。

 私には、以前からずっと気になっていたおじいちゃんの形見が

あった。

 それは、おじいちゃんがとても大切にしていた、小さなオル

ゴールの箱であった。男なのにオルゴールなんて、なんとおセン

チなおじいちゃんだとは思っていたが、あのなくなる数ヶ月前の

言葉・・・・「これには秘密が隠されておるが、秘密は秘密じゃ

からけっして、あばくではないぞ。」と言ってぼくにくれた、す

こし汚れた感じのオルゴール。

 私は、たまには自分の部屋の掃除をしようと思い、机の引き出

しまでさかさにしていた時に、その秘密のオルゴールがころげ落

ちた。すると、オルゴールは静かに、それも止まりそうな小さな

音楽を奏でながら、裏の蓋が開いてしまった。

 そこには黄色く変色した一枚の紙が入っていた。

「家の裏の柿の木から真北に向かい敷地の境の3歩手前。」

そう紙に書いてあった。そしていつしか止まりそうなオルゴール

の音楽は聞こえなくなっていた。

 私は、生前のおじいちゃんの声やしぐさをありありと思い出し

ていた。そういえばいつも夕日が赤くなると西の空をじっと眺め

ていたおじいちゃん。いつも黙って庭で何かをしていたおじい

ちゃん。

 私は、自分の子供の頃の思い出とおじいちゃんの思い出とに、

心が混乱するほど懐かしく思えた。いつしか涙もあふれていた。

 あの頃は楽しかった。未来も感じていたし、裕福でもない生活

ながら自分でおもちゃを作ったり、遊びを考えて楽しんでいた。

そんな中、おじいちゃんの存在は希薄だった。私に対しては何に

も意見など言わなかったし、教えてもくれなかった。ただ見てい

るだけの存在であった。

 そのおじいちゃんが、自分の死期を悟ったのか、みんなに遺言

らしきものを言ったり、そしてまだ小さい私にはこれをくれたの

だった。

 宝物。いったいなんだろう。昔の事だし、まさか大判小判が

ざっくざくとか・・・・

そんな期待感もあり、紙に書いてある場所に行き、スコップで

掘ってみた。

 そして箱を見つけた。

 土を落とし、台所できれいにした。その箱はすぐには開きそう

もないので、自分の部屋に持ってきた。何か仕掛けがあるらし

い。しかも、箱の上には、やっと見つけたか・・

 ・・・・と書いてあるし。

 しかし、パズルの得意な私にはものの数分で開ける事が出来

た。

 中には・・・・・ちゃんと入っていた。

 百円札が百枚・・・・・ 当時にしては大金だったろうけど、

今では街に飲みにも行けない金額であった。半ば喜びと、中途半

端な落胆を感じた。

 しかし、その百円札の下に手紙が入っていた。それにはこう書

いてあった。

 これを、見つけたか。 しかし、ここに入っているお金はもう

値打ちにはなるまい。 世の中は、貨幣価値も変わるし、人の心

も変わってしまう。

 さて、これは宝箱じゃが、ここにある金が宝ということはな

い。

 なにが宝物か、教えてしんぜよう。

 宝とは、今のおまえの命、時間、そして世の中じゃ。

 金など、宝物ではない。

 今のおまえのいる現実を大切にしろと、そういう訳である。

 この世に生きている・・・・それが最大の宝物なのである。

 これ以上は言うまい。それを気が付けば、おまえのこれからの

人生は 宝物にみちあふれるであろう。

             じいや より

  わたしは、おじいちゃんの声をありありと思い出し、そして

号泣していた。

 そして、おじいちゃんの人生に、とてつもない有終の美を感じ

たのだった。

 今でも、あの夕日を見る度に昔の思い出が甦ってくる。

 そして思った。

     そろそろ私も孫にあげる宝箱を用意しよう。

つづく
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