「やっぱり・・・」
貴子は勝ち誇ったようにアゴをあげた。
貴子は、高校を卒業してこの小さな町工場に勤めだしてからやっ
と二年目に入ったばかりの好奇心旺盛な女の子であった。どちらか
というと人の輪の中心にいたいほうで、貴子の好奇心はありとあら
ゆる方面に向けられていた。
現にこの一年間の工場での出来事で、貴子の知らない事は何もな
かった。と言うよりは、例えネジ一本のささいなことでも貴子の耳
に入ると会社の一大事のごとく、大騒ぎになってしまうのである。
そんな貴子の今一番の関心ごとは、同僚の芳江にあった。
芳江は美人というほどではないが、ブスと言われるほどでもない。
控えめで落ち着いた物腰は誰もが好印象を持った。仕事はバカがつ
くほど真面目で、担当以外の仕事でも頼まれれば文句も言わずにこ
なしていた。貴子も入社したての頃には仕事を一通り教えてもらっ
たし、今ではやりたくない仕事を芳江に押し付けたり、遊びの為に
欠勤する時には、翌日まで残しておいても良い様な自分の仕事を芳
江にしてもらったりと、何かと芳江には世話になっていた。
男性社員の間でも評判は決して悪くは無い。が、かといって恋愛
の対象としては考えてもらえない、俗に言う『良い人』止まりのタ
イプの人間である。
娘が一生懸命に服を選んでいる側で、貴子はふと遠い昔の出来事
を思い出していた。
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