「あ〜あ」
貴子は朝目覚めると同時に大きなため息をついた。
今日は祖母の3回忌の法要がある。それだけでもため息が出るほど
憂鬱なのに、何といっても今日は口うるさい叔父や叔母が全員集ま
る。しかもその席に貴子も参列しなければならない。という事は、
叔父や叔母に何だかんだと言われるのは分かりきっていた。それが
貴子に大きなため息をつかせた原因である。せっかくの休みなのに
朝寝坊する事もできずに、貴子はのろのろと起きだした。
ただでさえ憂鬱な日なのに外は小雨が降りだしていた。
退屈なお経もやっと終わり、しびれが残る足を気にしながらお参り
の為に墓所まで来た時である。貴子は信じられない様な光景をみ
て、目を丸くしたした。芳江である。
芳江はいつものように黒い服を着て墓参りをしていた。それは場
所が場所だけに別段驚く事ではなかったが、何んとあの芳江が男の
人と一緒ではないか。しかも、墓参りをする芳江に男の人が傘をさ
しかけていて、二人はとても仲睦まじく見えた。
「あの芳江が・・・」
地味で目立つ存在でもなく、いままでも浮いたうわさなど一度もな
かったあの芳江が、 男の人と一緒だというその事だけでも貴子に
とっては大事件なのに、貴子の存在に気づくことなくそばを通り過
ぎていく二人を見て、貴子はまたまた驚いてしまった。何と芳江と
一緒だったのは上司の飯島であったからである。普段、職場での二
人は何となくよそよそしさを感じさせる雰囲気があったので
「なぜ?・・どうして?・・・」貴子の興味は一気に膨らんだ。
それからはもう、貴子の頭の中は芳江と飯島のことが渦をまいてい
て、口うるさい親戚のお小言も、いつもは嫌う母親の手伝いも全て
上の空だった。
ありとあらゆる想像が貴子の頭の中を駆け巡っていた。
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