後になって、貴子は芳江がなぜ黒い服ばかりを着ていたのか飯島
から理由を聞かされた。
黒い服はすべて芳江の姉の形見であり、芳江と妻は服のサイズが
同じだったので捨てるのにはもったいないと芳江が貰い受けたもの
であった。黒い服ばかりになってしまったのは、妻が好んで黒い服
を着ていたからだとも言った。
姉を亡くして気落ちしている芳江に、早く良い人が現れて結婚し
てくれたら前のように明るい芳江に戻ってくれるのではないか、そ
れには一人身になった義兄の自分がいつも側にいるのでは妨げにな
るのではないかと思い、極力芳江と距離をおくようにしていたとも
言った。そのことがはた目から見るとよそよそしくしている様に見
えていたのである。
貴子は自分の思い込みだけで芳江にまくし立てて言ってしまった
事を後悔した。そして芳江が死んだ理由は自分が言った言葉に傷つ
いた事が原因ではなかったかと柄にもなく自分を責めた。
たしかに貴子に言われたことは芳江に大きなショックを与えた。
そのせいで眠れなくなってしまったのも事実である。真面目な性格
が災いして、貴子に言われたことに対して真剣に悩んでしまったの
である。
芳江は、自分に黒い服が似合わないことは百も承知していた。そ
れでも尚、黒い服を着ていたのは飯島に姉のことを忘れてほしくな
かったからである。幼いころから悲しいときも嬉しいときも姉がそ
ばにいてくれた。思い出のすべてが姉と一緒にあった。姉が死んだ
ときは芳江も一緒に死にたかった。それを思いとどまらせたのは残
された二人の子供たちである。
『姉が一番心残りだったのは子供たちのことだったであろう』
という思いで、一生懸命にできる限りの世話をしてきた。
それともう一つ、芳江にはどうしても姉の自殺が納得できなかっ
た。
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