若者が、娘の寝顔を見に来るようになったちょうど同じ頃、娘も不
思議な夢を見るようになりました。龍が、寝ている自分を覗き込ん
でいる夢です。娘には、なぜそんな夢をみるのかわかりませんでし
た。ただ毎晩のように見る龍の夢に、だんだん眠ることが恐ろしく
なってしまいました。でも、貧しい娘は働かなくてはなりません。
仕事で疲れている娘には、眠らないでいることはできませんでし
た。
娘が、毎晩見る龍の夢に慣れてきた頃、自分を見ている龍の目が、
とても優しいことに気がつきました。
そして似ていることに・・・・
以前、傷を負って弱っているところを、一生懸命介抱したあの若者
のことを、娘は一日も忘れたことはありませんでした。娘は若者の
名前も、住んでいるところも知りませんでした。でも 「必ずまた
会いに来る」といって国に帰っていったあの若者の言葉を信じて、
ずっと待ちつづけていたのです。龍の目は、あの恋しい若者の目に
どこか似ているように思いました。いつしか娘も、夢を・・龍が会
いに来てくれることを楽しみに待つようになりました。
ある晩のことです。若者は、夢の中でも龍の姿から元の姿に戻れる
ことに気がつきました。
若者は小躍りして喜びました。いつも、龍の姿を娘にみられるので
はないか・・もし龍の姿を見たら、娘は恐ろしくて逃げ出してしま
うのではないかと心配していたからです。若者は、娘の家の前に着
くと元の姿に戻り、いつものように娘の寝顔を見ようとしました。
その時です。ふと目が覚めた娘がなにげなく外に目を向けると、あ
の若者が・・・一日も忘れたことがないあの若者が家の前に立って
いたのです。
娘はおもわず外に飛び出していきました。
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