物 語
その2
作:mi_min 作品の著作権はすべて書いた本人のものです。
「やっと会えた・・・会いにきてくれた・・・」

一日千秋の思いで待ちつづけてきた恋しい恋しいあの若者が、今、

の前に立っているのです。幻を見ているのではないかしら。幻な

ら消えないでほしい!

もし夢を見ているのなら覚めないでほしい・・・

娘は心でそう念じながら、若者の方へ歩み寄りました。

若者もまた、ただ寝顔を見ることしかできなかった娘が、自分のほ

うへ歩いてくるのを見て、思わず娘のほうへ歩み寄りました。

「今この時を永遠に・・・」そう願わずにはいられないほど、二人

は強く惹かれあっていたのです。時のたつのも忘れて見詰め合う二

人でした。

それからというもの・・二人は毎晩のように会っては、手をつない

で野山を歩きまわったり、おしゃべりをしたり・・・それはそれは

楽しいひと時を過ごしていました。夜だけしか会えないことも、周

りが真っ暗なことも、二人にとっては何でもないことでした。ふく

ろうの鳴き声が小鳥のさえずりのように聞こえ、狼の遠吠えさえ怖

くはありませんでした。二人にとっては、こうして会えることが、

嬉しくて、楽しくて、何より幸せだったのです。ただ・・娘にとっ

ては、朝になると若者とわかれなければならないことが悲しくて、

若者が帰って行った後は涙を流す毎日でした。

ある日のこと、毎日のように泣き暮らす娘を不審に思った母親が、

そっと様子をうかがっていました。するとどうでしょう。娘が夜中

に起き出して、外へ出て行くではありませんか。驚いた母親は娘の

後をつけてみることにしました。そして何と、娘が龍と遊んでいる

ところを見てしまったのです!娘が龍に連れ去られるのではないか

と心配した母親は、朝になって龍が帰っていったのを確かめると、

急いで娘を岩山の洞窟に隠してしまいました。


若者は、いつものように夢の中で龍になり、娘に会いに行きました。

するとどうしたことか娘の姿が見えません。若者は、二人で歩いた

野や山を探し回りました。でも、どうしても娘を見つけることがで

きませんでした。次の夜も、その次の夜も探しまわりましたが、娘

の姿はどこにも見当たりません。

娘に会うことが出来ないでいる若者は、娘のことが気がかりでなり

ませんでした。

なぜ娘の姿が見えないのか・・・どこに行ってしまったのか・・・

昼も夜も娘のことばかり考えていました。そして、夜にしか龍に

なって娘を探しに行けない事がはがゆくて、昼間はいらいらしなが

ら夜になるのを待ちました。

若者には国を治めていかなければならない大事な仕事が山のように

あるのに、天女のような美しい娘の寝顔と、心から楽しそうに笑っ

ている娘の笑い声が、頭からはなれませんでした。

とうとう若者は気が狂ったようになってしまいました。たとえ自分

は龍の姿から戻れなくなってしまってもいい、夢の中だけではなく、

夜も昼も娘を探しに行きたいと思うようになりました。

「龍になりたい!」

龍に・・本物の龍になりさえすれば、娘を見つけることが出来る。

いいや必ず見つけてみせる!そんな思いが、若者の龍になりたいと

いう願いを強くさせました。

そしてその願いがあまりにも強かったためでしょうか、若者はつい

に本物の龍になることができたのです。

龍は空高く舞い上がると、まっすぐに娘の家を目指しました。娘を

見つけることが出来ないのは、どこか見落としているのだろうと思っ

たからです。はじめから丁寧に探さなければ・・・。龍の目は決し

て娘を見逃さないようにと、大きく見開かれました。

「見つけた!」

とうとう娘を見つけたのです。龍は思い迷わずにまっすぐ娘をめが

けて降りていきました。


若者が娘のことを必死になって探していたちょうどそのころ、洞窟に

閉じ込められていた娘も又、何とか逃げ出そうと必死になっていまし

た。

若者に会いたい・・もう一度一緒に野山を歩きたい・・

会いたい・・・

若者への熱い想いが娘を駆り立てました。きっと若者が心配している。

きっと私を探している。娘はいてもたってもいられませんでした。ど

んなことをしてでも、ここから抜け出さなければ・・・。若者に会い

たいと思う気持ちが娘に力を授けてくれました。そして娘は、やっと

のおもいで洞窟から逃げ出すことが出来たのです。

と、その時です。

空から一匹の龍が、娘をめがけてまっすぐに舞い降りてきました。

していきなり娘を背中に乗せたかとおもうと、ふたたび空高く舞い

上がったのです。驚いた娘は逃げようとしましたが、空の上ではどう

することも出来ません。でも不思議なことに、龍の背中は広くて、温

かくて、やさしくて・・・とても安心していられたのです。それは、

若者と一緒にいたときに感じていたのと同じでした。そして娘はやっ

と気が付いたのです。龍が、毎晩夢に見ていたあの龍であることを、

そしていま、自分を背中に乗せて空を飛んでいる龍が大好きなあの若

者であることを・・

娘は、若者が龍になってまでも自分を探しに来てくれたことが、嬉し

くてなりなせん。このまま・・・永遠にこのまま二人でいたい・・・

娘は周りで輝いている星々に強く願いました。

その日から・・・お天気の良い星が輝く夜になると、娘を背中に乗せ

た一匹の龍が、満天の星空を悠々と飛び回る姿をみかけるようになり

ました。

今でも、星空を見上げて耳をすますと、龍の背中に乗って楽しそうに

している娘の笑い声が聞こえてくるかもしれません。

                                                 

・・・完・・・
このサイトで展示又は使用されている作品や素材は全て
「有限会社 芸プロ」「遠藤弘行」の著作物であり、法律で守られています。
私用、商用を問わず、無断転載、複製、配付、使用その他の全ての行為を禁じます。   有限会社芸プロ TEL.024-521-1590